「Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命 -移動と都市の未来-」ってどんな本?
2020年3月に発行されたMaaS本です。
世界と日本国内のMaaS界隈の直近までの動向がほぼ網羅されているので、これからMaaSの勉強をしようとしている人や、最新の情報をキャッチアップしたい人は必読です。
前作は2018年11月に発行された「MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ」です。
著者
日高洋祐
MaaS Tech Japan代表取締役。
国交省のMaaS関連の審議会委員などでもよく名前を見ます。
元JR東日本でスマホアプリ開発や公共交通連携プロジェクトなどをされていたそうです。
早くから日本でのMaaSの社会実装を推進している方です。
牧村和彦
計量計画研究所理事兼研究本部企画戦略部長。
都市交通のスペシャリストで、複数の大学で客員教授などを務められています。
ググると交通関係のパワポ資料がかなり出てきます。
井上岳一
日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリスト。
東大農学部→農水省→日本総研という経歴の方。
地域を持続可能にする「ローカルMaaS」のエコシステム構築に注力しているとのことです。
井上佳三
自動車新聞社代表取締役兼LIGARE編集長。
LIGAREは「国内唯一のモビリティ専門誌」を謳っていることもあり、MaaS、CASE、電動キックボードなどの新しいモビリティの情報に特化した媒体という印象があります。
『序章』の感想
序章では、前作からの状況変化の説明からはじまり、政府や各産業の取り組み状況を伝えています。
まさに、2019年は日本にとってMaaS元年と言える年になったと私も感じています。
筆者らもMaaSプロジェクトに参加する中で、緒についたばかりの現状に満足するのではなく、もう一段目線を引き上げ、さらなる高みを日本の多くのプレーヤーと目指していきたい。
というのが本書の執筆のきっかけとのことですが、たしかに私が勝手に想像する「MaaSが実装された世の中」と比べても、まだまだ足りないものばかりの状態です。
その意味で、MaaSの最終的なゴールを「あらゆる生活者の暮らしをより良いものにアップデートすること」に設定している点は共感できます。
というか、大抵のテクノロジーってこれに集束しますよね。
海外ドラマのシリコンバレーでネタにされていた"Make the World a Better Place"っていうのがありますけど、未来の常識を作っていく技術っていうのはまさしくそれを地で行くものだと思います。
逆に技術が目的化したプロダクトって、どこか世の中に馴染めなくて消えていってしまいますからね。
本書での重要なキーワードに、MaaSの価値を深掘りする「Deep MaaS」と、異業種との連携による「Beyond MaaS」の2つがあります。
「Deep MaaS」はMaaSの本質を捉えて進化させ、持続可能なビジネスとして事業に反映させていくというもの、ということですが、「MaaSの本質ってなんだ?」っていうのは今こそ真剣に考えておかなければならないところですよね。
先行事例の形ばかりマネしても、その土地その土地の条件や環境にマッチするかわかりませんし。
「Beyond MaaS」は異業種との連携により生じる新たなビジネスモデルの世界、ということですが、たぶん、MaaSが当たり前になって、それに伴う様々なビジネスが盛り上がってきたら常識が変わりますよね。
インターネット前後、スマホ前後くらいの変化は覚悟しておいたほうがいいんじゃないでしょうか。
1~3章では国内外の最新動向、4章では実践・応用編として「Deep MaaS」と「Beyond MaaS」を解説、5~7章では各業界のアクションプラン、異業種連携のアイデア、8章はMaaSからはじまるスマートシティについて、書かれていますが、正直言って私は3章末のMaaS Global CEOのサンポ・ヒータネン氏のインタビューから面白さが加速していきました。
『1 号砲!令和時代の「日本版MaaS」』の感想
クルマの所有からシェアへという大きな流れと、それによってもたらされる新しい社会の到来について書かれていますが、個人的には「早く来い!」と願っているところです。
MaaSが実装された社会では、自動車事故による死亡者、買い物難民、移動格差などの社会的課題を解決することが期待されているとのことです。
昔は「馬に蹴られた」というのが死因の上位だったこともあるそうですから、自動車事故などは減る世の中になるでしょうね。
代わりに別の問題は出てくるでしょうけど。
国内事例として、国交省や経産省のプロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」により国内各地で実証実験が進められているとのことです。
スマモビ、あれって自分の住んでるまちに誘致できないもんですかね?
誰に言ったらいいんだろう?
モネテクノロジーズの「モネコンソーシアム」が加盟団体450以上になり、そのほかにも様々なMaaS推進団体が発足するなど、動きが活発になっているそうですが、この間、モネテクノロジーズのサイトを見たら500超えてましたね。
ちょっと疑問に思ってるのは「たくさん集まってます!」ばっかりで「こんな実績上げました!」がイマイチなんですよね。
個人的には、「Yahoo!乗り換え案内アプリに予約と決済機能を追加することに全力を注げばいいのに」と思っていますが、そんな動きはまったく見えませんね。
私が想像しているMaaS実装の最短経路って邪道なんでしょうかね。
日本ならYahoo!とSuicaが組んでしまえば無双だと思うんですが。
個人的に注目している小田急電鉄が「emot」をはじめたほか、トヨタも「my route」をはじめるなど、交通事業者やスタートアップ企業によるMaaSアプリの実験が始まっていますね。
ウィラーも北海道と京丹後でやってますし。
でも、本書で紹介されているように、海外勢もそれ以上のスピードで進んでいますからね。
海外勢にプラットフォームを抑えられないようがんばってほしいです。
『2 「何のためのMaaSか」~見えてきた課題と光明~』の感想
日本政府の成長戦略「未来投資戦略2018」、「成長戦略フォローアップ」では「日本版MaaS」という言葉が使われています。
海外の成功事例をそのまま持ってきても「日本版MaaS」にはならないですよね。
地域の色はどうしても出るし、地域にマッチしないとビジネスが成り立たないでしょうから。
東急などの私鉄が昔からやっている沿線開発が今、海外で再評価されているというのが驚きでした。
そうか、ヨーロッパでは公共交通機関は公営がなんですね。
「日本版MaaS」ってそこに特色がありそうです。
ということは、やっぱり小田急は間違ってないということですね。
心配なのは、本書でも指摘があるように、同じエリア内での競争関係が協力関係になれるかどうか。
その意味では「my route」でのJR九州と西鉄の協力は、これからのMaaSのあるべき姿なのかもしれませんね。
また、人口密度の高い都市部のMaaSに対し、人口密度の低い地方のMaaS「ルーラルMaaS」をどう実現するかも課題とのことです。
都市部は、MaaSの部品はそろっているので、あとはつなぎ方の問題という印象ですが、地方は部品自体が少ない、行き届いてないという印象があります。
特に北海道は本州よりも5年くらいドライバーの高齢化問題が進んでいる感じです。
あと、「日本の法律は規定されたもの以外は認めないというポジティブリスト方式」というのはそのとおりで、守ることは得意だけど、変化の時代では攻めが超苦手になりますよね。
規制のサンドボックス制度も、事例を見るとサンドボックスというほど自由は無さそうな印象。
日本ではイノベーションは保育器で育てるんじゃなく屋外に放り出されて死ぬという印象があります。
政府だけじゃなく交通事業者もそうですけどね。
本書にあるようにオープンデータへの対応も日本は民間事業者任せなのでバラバラ。
地方で競合が少なく殿様商売のところは「GTFS?それって金になるの?」という感じ。
「Googleで経路に出てこないってことは存在しないのと同じ」ということが理解されていない、そんな経営判断が地方の交通機関では常態のようです。
本書によると、いろいろ課題はあるものの、日本政府は想定以上のスピードで動いているとのこと。
たしかに、法改正などスピード感はあるように感じますが、全体としては足並みがそろっていない印象です。
自動運転のレベル3合法化は世界に先駆けて実現しましたが、電動キックボードがまだ自転車扱いになっていなかったり、セグウェイですら自由に乗れなかったり、未来感と昭和感が混在しているのが今の日本の交通なのかな、と。
特に新しいモビリティを既存のカテゴリーに強引に当てはめる流れは止まらなさそう。
今のカテゴリーだって誰かが考えて作ったものだろうに。
と、ここまで書いて前編はおしまいです。
第3章以降の感想はまた後日。